篠田節子の傑作中編集「はぐれ猿は熱帯雨林の夢を見るか」
SFテイスト満載で、篠田節子の初期作品を思わせる味わいがあって、楽しいエンタテインメント作品になってます。
【 深海のELL 】
フランク・シェッツィングのベストセラー海洋SF『深海のYrr』のパロディ。
2メートルもあって目が光ってるウナギが海でバカほど捕れちゃって、これを食べた人が食中毒を起こして、このウナギには体内で濃縮されたレアメタルがたっぷり含まれていた・・・。
これを資源化すれば・・・という話。
『おバカ海洋SF』の器で、話題のレアメタルを扱ったナイスな作品。
【 豚と人骨 】
この題名も、なにかのパロディみたいな気もするのに、元ネタが思いつかない・・・。
で、マンションを建てようとしたら古い骨が大量にでてきて、役所主導の埋蔵文化財調査になっちゃう。
著者の埋蔵文化財調査にかかる知見がなかなかのものです。
で、縄文時代にすでに豚を飼育していたのではないかと推定されて、長く眠りについていた寄生虫が蘇って一騒ぎあって、ドタバタ・・・。
女性の骨ばかりが積み重ねられたように埋まっているという設定が、妙にリアル。
なかなか面白い。
【 はぐれ猿は熱帯雨林の夢を見るか 】
言わずと知れたP・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』をもじった題名。
で、本作は猿のボノボの意識を持たせて生物をシミュレーションするロボットと、このロボットにストーカーされる”とある女性”を巡るお話し。
不気味な場面があるかと思うと、ボノボの習性にまつわる下ネタ(?)が炸裂して、なんとも可笑しい!!
【 エデン 】
男がハニートラップによって拉致されて、タコ部屋的にトンネル掘削工事につかされ、これが63年がかりの工事!?
新世界を求めてひたすら掘り進める・・・。
なんとまあ、不思議で凄い作品!!
SF的ツールやガジェットは皆無なんだけど、SFの手触りがあって、えもしれない後味が残ります。
総じて4作品とも出来がイイ。
筒井康隆や
かんべむさしや
横田順彌が書いていた「70年代日本SF」の系譜を引き継ぐ、美味しい中編集でした。